東海愛知新聞バックナンバー

 8月15日【金】
脊髄損傷者に光

人工神経回路で歩行機能再建へ

腕の筋肉の電気信号活用

岡崎市明大寺町にある自然科学研究機構生理学研究所の西村幸男准教授らの研究グループは、腕の筋肉から得られる電気信号を人工神経回路を介して歩行中枢の腰髄に伝え、歩行運動の随意的制御に成功したと発表した。歩行機能を失った脊髄損傷者が自分の意志で再び歩けるようになる可能性があることを示した。(竹内雅紀)

今回の実験では健康な成人男性10人を対象とした。脳に直接電極を埋め込むことはせず、脳からの電気信号を受けて動いている腕の筋肉に着目した。右肩に特殊なシールを貼り、腕の筋肉から得られた電気信号の記録をコンピューターで解読。それを変換し磁気刺激装置を介して、歩行中枢がある腰髄に信号を伝えると両足が動いた。腕を速く振ると、足も連動して速く動き、腕の動きを止めると、足の動きも止まった。この実験では、脊髄損傷者のうち、胸から腰の上の位置までの胸髄を損傷している人で脳や腰髄の機能が残っている場合に有効。人工神経回路を使えば自分の意志で歩けるようになることが可能だと結論付けた。

今後は磁気刺激装置の軽量化や、脊髄損傷者への臨床実験が必要になる。西村准教授は「手術なしで随意的な歩行を再建できる可能性を示せた。ただし、現段階では足が障害物に当たった際に避ける運動や立ったままの姿勢の保持は制御ができない。安全性を確認しながら研究を進めたい」と話した。

研究成果は米神経科学専門誌「ジャーナル・オブ・ニューロサイエンス」電子版に掲載されている。